Vol.12 ♪ケアレス・ラヴ♪~エリック・クラプトンの"タイムマシン"ミュージック
全米No.1アルバム「デュエットⅡ」を大ヒットさせたトニー・ベネットは、「デュエット企画のツボは(ジャンルや趣が)異なったアーティストとのコラボだよ」とコメントしています…そんな意味で、エリック・クラプトンがジャズ・トランペッターのウィントン・マルサリスと組んで制作したアルバム「プレイ・ザ・ブルース」は、トニー・ベネットの言葉通り、まさに異なったジャンルのアーティストとの、想像外であり画期的なスタイルのデュエット・アルバムと言えましょう…。
今回はこのクラプトンのニュー・アルバムに収録された「ケアレス・ラヴ」をピック・アップしてご紹介いたします。
この曲の作家、そして、"ブルースの父"と言われているW.C.ハンディーは、作曲家というより蒐集家で、旅行中に耳にした多くのトラディショナル・ソングを編纂し、著作権登録をしていたようです。
今回ピック・アップする「ケアレス・ラヴ」も、実際のところ1800年代後半にトラディショナル・ソングとして生まれたようですが、1921年にハンディー並びにスペンサー・ウイリアムス/マーサ・E・コーニグの共作としてクレジットされています。
ベッシー・スミスやダイナ・ワシントンと言ったブルース系アーティストによる歌唱の他、ニューオリンズ・ジャズのスタンダードとして、ジョージ・ルイス他多くのミュージシャンによって演奏されています。
ルイ・アームストロングやビリー・ホリデイは同じメロディーで"Loveless love"という歌詞・タイトルで歌っているように、ここでの"ケアレス"は不注意と言う意味ではなく"loveless"と同じ"愛がない""無慈悲""冷酷"な…という意味です。 クラプトンはニューオリンズ・ジャズ・スタイルで"冷たい愛"を切々と歌っています。
さて、ウィントン・マルサリスと制作されたこのアルバムで聴けるのは、なんと、ニューオリンズ・ジャズとエレクトリック・ギターの共演という、奇想天外なコラボレーション。 そもそも1920年代のジャス・サウンドに、エレキ・サウンドが入るということはあり得ず、まさに前代未聞の試みです。
一般にジャズにソロ楽器としてのエレキ・ギターが登場するのは、'40年代のチャーリー・クリスチャン以降で、それまでギターはひたすらリズム楽器として存在するのみでした。
故に、ここで聴く事が出来るサウンドは、かの時代にトリップしたクラプトンが歌いギターを奏でる、という、いわば"タイムマシン"ミュージックと呼ぶべきものなのかもしれません。
そんな事実を踏まえつつ、このアルバムを聴くのも一興かと。。。 是非お聴きください。
リリース情報
ウィントン・マルサリス/エリック・クラプトン【Play The Blues -Live From Jazz At Lincoln Center】
(WPCR-14190)
尚、YouTubeのエリック・クラプトン・オフィシャル・チャンネルではこのライヴのリハーサルの模様などがアップされています。
http://www.youtube.com/user/ericclapton