Vol.15 名作:キャロル・キングの『つづれおり/Tapestry』が育んだアーティストたち
2011年の洋楽界で特筆すべきことの一つは、"歌"の復活でしょう。
特にエルダー・マーケットにおける"歌"需要は顕著でした。
トニー・ベネットの『デュエットⅡ』は、レディー・ガガやエイミー・ワインハウスといったデュエット相手が話題となりましたが、アルバムを全米1位に押し上げた理由はそれぞれの"歌"と"曲"の力といえましょう。
またクリスマス・シーズンに英米でマイケル・ブーブレの『クリスマス』がミリオン・セールスを上げたのもオーソドックスな"クリスマス・ソング"を聴きたいユーザーが如何に多いのかを教えてくれました。
アルバム『21』を世界で1,300万枚売り、第54回グラミー賞では主要3部門でノミネートされているアデル、彼女も我われに"歌"の力を再認識させてくれました。 特に音楽ファミリーではなく普通の家庭で育った彼女の幼い頃のアイドルはスパイスガールズだったそうですが、キャロル・キングら'70年代シンガー・ソングライターのパーソナルな詞の世界に興味を持ったのはブリットスクール時代のスクール・メイトの影響とか…。
ポジティヴな女性のパワーを謳歌するビヨンセを代表とするアメリカの女性シンガーとは対象的に日本のシンガー・ソングライターにも共通するネガティヴな内容をパワーとするスタイルは今日の欧米ポップ・シーンにはむしろ新鮮だったのかもしれません。
「キャロル・キングの作品がそうであるように、曲が主役で、ナチュラルに生まれてくるもの、音楽はそうあるべきだと思っているの」(ライナー・ノートより)…というアデルのフェイヴァリット・アルバムはもちろん『つづれおり』。
さて、惜しくも今年7月、27歳という若さで亡くなってしまったエイミー・ワインハウス も"歌"の力を聴かせてくれました。
タクシーの運転手の父と薬剤師の母の間に生まれたエイミー。
JAZZファンの父親は、エイミーの声がダイナ・ワシントンの声に似ていたので、ダイナやサラ・ヴォーンの歌を彼女が小さい頃から聴かせていたそうです。
一方、母親はジェイムス・テイラーやキャロル・キングといった'70年代のシンガー・ソングライターが大好きで、これもエイミーに聴かせていたようです。
父親のJAZZの影響は1stアルバム『フランク』(フランク・シナトラの意)に反映されていますが、2ndアルバム『バック・トゥ・ブラック』では赤裸々にパーソナルな詞を歌うシンガー・ソングライターとしての才能を発揮しています。
エイミーが敬愛していたアーティストの一人がキャロル・キング、先ごろ発売になった彼女の遺作『ライオネス:ヒドゥン・トレジャーズ』では「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミートゥモロー」(『つづれおり』より)を聴かせてくれます。
ニッキー・ジーンというミネソタ生まれの28歳のシンガー・ソングライターは、全米の音楽業界関係者が驚いたという画期的なアルバムを制作しました。
デビュー・アルバムの企画打ち合わせで彼女がプロデューサーのサム・ホーランダーに言った言葉は、「私なりの、キャロル・キングの『つづれおり』のようなアルバムが作りたい。何故なら、全曲素晴しい楽曲が揃ったアルバムだから」(ライナー・ノートより)。
このアイデアをもとに制作されたアルバム『ペニーズ・イン・ア・ジャー』は、なんと、トム・ベル(ララは愛の言葉)、ラモント・ドジャー(ベイビー・ラヴ)、バート・バカラック(恋の面影)、ジェフ・バリー(ビー・マイ・ベイビー)、キャロル・キング、ポール・ウィリアムス(愛のプレリュード)、ジミー・ウェッブ(ビートでジャンプ)、バリー・マン&シンシア・ウェイル(ふられた気持)、カーリー・サイモン、ボブ・ディランら12人の伝説的な作曲家に作品を依頼、制作したもの。
それぞれの曲の良さが、改めて作家の力量を思い知らせてくれます。
ニッキーはシャウトするタイプのシンガーではありませんが、そのさわやかな歌声がそれぞれの曲の良さをナチュラルに引き出しています。
2011年アメリカでのトップ3アルバム(売上)は『21』アデル(530万枚)、『ボーン・ディス・ウェイ』レディー・ガガ(203万枚)、『クリスマス』マイケル・ブーブレ(196万枚)。
キャラクターが先行して取りざたされがちなレディー・ガガも、実は"歌と曲"の良さがその成功のベースになっています。
2012年音楽界のキーワードは間違いなく"歌"の復活といえるでしょう。
"楽曲""歌"の魅力が詰まった、現代のシーンのトップ/最先端を疾走するアーティスト/シンガーがこぞってその影響を公言する大名盤:『つづれおり』。 2012年の音楽シーンの潮流を読み解くヒントがそこに!
この機会にあらためてお聴きくださいませ!
リリース情報
キャロル・キング『つづれおり』
(EICP-842、¥1,890)
大名盤が完全限定生産の紙ジャケット仕様でよみがえる!
アデル『21』
(BGJ-10107、¥2,490)
2011年を"アデル・イヤー"にしたモンスター・ヒット・アルバム。
2011年度年間No.1シングル「ローリング・イン・ザ・ディープ」収録。
アデル『ライブ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール』
(BGJ-10140:CD+DVD、¥3,280)
『21』で全世界的なブレイクを果たしたアデルの凱旋公演、その熱さがパッケージされたかのようなライヴ音源/映像!
エイミー・ワインハウス『ライオネス:ヒドゥン・トレジャーズ』
(UICI-1102、¥2,500)
稀有なキャラクター、歌声…21世紀最高のシンガーが歌う20世紀の名曲!
世界はひとりの天才を失った…その事実を改めて実感するエイミーの遺作。
ニッキー・ジーン『ペニーズ・イン・ア・ジャー』
(TOCP-71203、2011/11/16リリース、¥2,300)
今日のポピュラー音楽を作り上げた12人の伝説的作家と奇跡のコラボレーション!
歌は世代を超える!