Vol.25 〜 "め〜もり〜"は世界の合言葉〜「キャッツ」映画版

Vol.25 〜 "め〜もり〜"は世界の合言葉〜「キャッツ」映画版
皆元気?洋楽聴いてる?今回はちょっと趣向を変えて、来年1月に日本公開が決定した映画版「キャッツ」を取り上げてみよう。
ミュージカル作品の映画化ということで、洋楽ファンとしてはどんなアーティストが?と期待してしまうが、やはりいちばんの話題はテイラー・スウィフトの出演だろう。ねこのボンバルリーナ役で登場。また、彼女とアンドリュー・ロイド・ウェバーが書き下ろした楽曲「Beautiful Ghosts」は作品のエンドロールで流れる他、主演のフランチェスカ・ヘイワード(ヴィクトリア役:イギリス王立、ロイヤル・バレエ団所属)が劇中で歌っているらしい。
また、アメリカン・アイドル出身で、その後2007年公開のミュージカル映画「ドリームガールズ」で大ブレイク、第79回アカデミー助演女優賞を獲得した実力派ジェニファー・ハドソンがグリザベラ役で出演、ミュージカル史上に残る名曲「Memory」を披露している。


英米合作ということで、イギリス側からハリウッドのスターを迎えるのは、「007」シリーズで有名なジュディ・デンチ(オールド・デュテロノミー)、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、「ダ・ヴィンチ・コード」などで印象的な演技を見せたイアン・マッケラン(劇場猫ガス)、またイギリス出身のコメディアンで、現在はアメリカCBSの「レイト・レイト・ショー」の司会としても有名なジェームズ・コーデン(バストファー・ジョーンズ)など。
これだけのキャストをまとめる(寒気のするような作業である…)のは、「英国王のスピーチ」で第83回アカデミー賞の作品賞を獲得すると同時に、自らも監督賞を受賞したイギリス人監督トム・フーパー。一瞬、“えぇ?あの「悪魔のいけにえ」トビ・フーパーが??”と目を疑った自分が少々悲しい。
さて、この「キャッツ」、そもそもどのような経緯でミュージカルになったのか?
アメリカ出身(1927年イギリスに帰化)の詩人/劇作家で、1948年度ノーベル文学賞受賞者であるT.S.エリオットが1939年に発表した児童向け詩集「キャッツ:ポッサムおじさんの猫とつきあう法」(The Old Possum’s Book of Practical Cats)が原作。
ロイド・ウェバーは幼少期のお気に入りでもあったこの詩集に1977年から音楽をつけ始めた。当初それらの楽曲を世に出すという目的は希薄で、音楽化を目的としていない詩に、どれだけメロディを付けることができるかという、いわば訓練のようなものだったらしい。
いわゆる「連作歌曲」(Song Cycle)として楽曲を書き溜めて行ったロイド・ウェバー、1980年にBBCが彼のミュージカル作品「Tell Me on a Sunday 」をTV化したのだが、それを契機に“エリオット詩集を原作とした音楽/映像作品”というアイディアにたどり着き、ミュージカル・プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュにアプローチを開始。
同年夏「Practical Cats」とタイトルされた連作歌曲が初めてコンサート形式で披露された。会場となったのはSydmonton Festival。少々耳慣れないイベントだが、それもそのはず。ロンドン南西部にあるロイド・ウェバー所有(ぎゃ!)の16世期の教会を会場に行われるいわゆる業界人向けプレゼンの場である。そこで彼は詩集「キャッツ」未収録の詩を含む楽曲を披露、同時にTVではなくミュージカルとして作品を世に送り出すことにした。
かくして1981年5月11日にニュー・ロンドン・シアターでプレミア。ちなみに、同会場は2018年からジリアン・リン・シアターと改名したが、同年に92歳で亡くなったジリアン・リンは「キャッツ」、「オペラ座の怪人」などを手掛けた振付師である。
世界動員数7000万人以上というミュージカルを代表するモンスター作品であり、日本では劇団四季で有名な「キャッツ」(ちなみに今月からスタートした四季版は来年6月までのウルトラ・ロングラン公演がすでに告知されている)。その実写化というと、かなりチャレンジングな作業だと思うのだが、徐々に解禁になって来た予告を見る限り、グラマラスで、ちょっと怪しいねこの世界が楽しめそうだ。


1992年にナイト(騎士)叙勲、1997年には一代貴族(シドモントンのロイド=ウェバー男爵というらしい)を叙爵、同時に英国上院議員にもなった(2017年に勇退)ロイド・ウェバー。ヴィクトリア朝絵画のコレクターとしても有名だ。NYタイムズをして、“史上最も成功した作曲家”と称され、イギリスの大手紙The Sunday Times紙の集計では、イギリスで最もリッチなアーティストともされている。ポール・マッカートニーをも凌ぐと言われると、ひたすらひれ伏すしかないのだが、実はそのマッカートニーより6歳年下というのを知って、ちょっと驚いた(1948年生まれの71歳)。最新ミュージカルは2015年上演の「スクール・オブ・ロック」なのだが、まだまだ現役なところが素晴らしいよね。 ではまた次回に!



● Profile:JIDORI

メジャーレコード会社の洋楽A&Rの経験もある音楽ライター。「INROCK」を始めとする洋楽系メディアで執筆中。ユニークで切れ味の鋭い文章が持ち味。