Vol.06_02 オリジナリティの源泉〜Van Halen <後編>

Vol.06_02 オリジナリティの源泉〜Van Halen <後編>
前年12月リリースのシングル「Jump」でバンドが示した方向性は、デビュー当時からの彼らのファンのみならず、音楽シーンにとてつもないインパクトを与えた。バンドがデビューから常に追い求めて来た"ハード・ロックとポップスの完全な融合"がわずか4分の楽曲内で完結していたからだ。


単独プロデュースとしては最後になるテッド・テンプルマンのアシストも見事だが、前作の低迷が嘘のように、アルバムにはポジティヴなエネルギーが満ちている。カヴァーは1曲もなし(ただし「I'll Wait」には意外にもThe Doobie Brothers のマイケル・マクドナルドが参加)。ひたすら"ロックの楽しさ"だけを追求したようなその作風には、"ちょっと日和ってないか?"という、少数派の批判こそあれ、「Jump」はバンドにとって初の(そして唯一の)シングルNo.1を記録。アルバムのセールスは1,000万枚を超えた。これは良く知られたエピソードだが、アルバムのBillboard 誌最高位は2位。その当時ずっと1位をキープしていたのが、マイケル・ジャクソンの「Thriller」しかも、このアルバムからのメガ・ヒット・シングル「Beat It」にエディはギター・ソロを提供。
「Jump」の印象的なPVも思い出深い。現在のアーティスト・ビデオの手本ともなっているこの作品、実はデイヴが監督を務めている。微笑みを浮かべながら、とんでもないプレイを披露する(ギターのみならずキーボードまで!!)エディ、デイヴの躍動感など、バンドの魅力を見事に捉えている。バカ過ぎてMTVで放送禁止になった「(Oh) Pretty Woman」と比較すると、あまりの落差に笑える。
しかし、大成功の後には苦難が待つ、これは成功を収めたロック・バンドに宿命なのかね?
以前からのソロ活動がかなりの成功を収めていたデイヴが1985年、遂に脱退。
様々なシンガーがその後釜としてウワサされる中(女性の名前も挙がっていた)、バンドがピックアップしたのは、原稿頭の方で名前が出ている、元Montroseで、当時ソロ・アーティストとして成功を収めていたサミー・ヘイガーだった。
自らを「VOA : Voice of America」と呼ぶ大物との出会いは、ある意味スーパー・グループ誕生の瞬間でもあった。実際、彼が参加した「5150」(1986年)以降、4作のアルバムはすべて全米チャート1位を記録している。
しかし、同時にエゴの強いサミーから、"デイヴ在籍時の楽曲は基本的にライヴで演奏しない"というかなり無理のある申し出をバンドは飲まざるを得ず、古くからのファンからは"それって、あんまりじゃない?"の声が多数派を占めていた。
サミーの在籍は最終的に約10年にも及ぶのだが、この時期のバンドは明らかに"エッジを失って"いる。
かなり険悪な状態のままサミーは脱退、同年1996年にデイヴがバンド初のベスト・アルバムに収録された新曲2曲のレコーディングに参加、にわかに"オリジナル・メンバーでの復活"がメディアの俎上に上がる。しかし、程なくしてデイヴは再び脱退(おいおい...)、残されたメンバーは再びシンガー探しに追われる。
デイヴ、サミーのような明確な個性を持つシンガーは大歓迎なのだが、正直コントロールしづらいメンバーはいらない、という考えがそこにあったのかは不明だが、3代目の座を射止めたのは、ボストン出身のロック・バンド、Extreme のゲイリー・シェローン。1998年に「III」を発表。サミー時代にかなりの割合を占めていたソフト路線はかなり修正され、特にエディのフラストレーションを晴らすには役立った気がする本作。しかし、アルバム・チャートは4位止まり。
案の定、"やっぱりダメじゃん、ゲイリー"の声が。正直、前任2名と比較するのは酷な気もするのだが...当時開催されたジャパン・ツアーを見る限り、かなり健闘はしていたように思う。


その後バンドは水面下に潜伏。その間、エディにガンが発見され2002年には手術を行なっている。
2004年、再びサミーと合流したバンドは、新曲3曲を含むコンピレーションをリリース。しかし、そのクレジットにマイケルの名前はない。サミーとは親しかったマイケルなのだが、ヴァン・ヘイレン兄弟との関係は、既に取り返しのつかない状況に陥っていた。
そして、2007年には遂にデイヴが完全カムバック。また、同年のツアーではベース・プレイヤーとしてウルフギャングが初お目見えを果たした(若干16歳!!)。
そして、デイヴを1984年以来、なんと28年ぶりにシンガーに据え、オリジナル・アルバムとしても1998年以来14年ぶりとなる「A Different Kind of Truth」を2012年にリリース。翌13年に開催された東京ドームでの公演を収録したライヴ・アルバムが現在までの最新作となっている。

アメリカを中心として彼らのカヴァー・ソングだけをレパートリーとし、衣装、楽器(エディのペイント・ギターとかね)までコピーしてライヴを行い、それである程度の生計を立てることが出来るバンドも多いと聞く。また、動画サイトや教則本の類が大いに発展した現在では、エディのプレイを完全にコピーしたアマチュア・プレイヤーだって数多く存在する。実際、それを見るのはとても楽しいしね。
しかし、何よりも重要なのは、"いったいどこから、こんなアイディアが"というエディのギターのオリジナリティや、数万人の観衆を相手にしても、その数倍のエネルギーを返すバンドのパフォーマンスのカッコよさなのではなかろうか。こんなバンド、もう出てこないかもな。
では、また次回に!






● Profile:JIDORI

メジャーレコード会社の洋楽A&Rの経験もある音楽ライター。「INROCK」を始めとする洋楽系メディアで執筆中。ユニークで切れ味の鋭い文章が持ち味。