Vol.13 BURT BACHARACH(バート・バカラック)
うっとうしい梅雨もそろそろ終わり、もうすぐ待ちに待った夏がやってきます。夏休みも近づくこれからの季節、散歩やドライブなど何かと外に出掛ける事が多 くなると思いますが、そんな時のBGMとして最適なのが、バート・バカラックのナンバー。初夏の陽射しの中で聴けば幸せな気分になれる事請け合い!のスタ ンダードばかり。今回のTheSeasoning of Songsは、そんな名曲を数多く生み出した稀代の作曲家:バート・バカラックを特集いたします。
【ALL ABOUT バカラック】
ここでは簡単なバカラックのバイオグラフィをご紹介します。
(夢~不遇時代、そして光明)
アメリカのポピュラー音楽の世界において、コンポーザー/アレンジャ-/プロデューサーとして既に50年以上もトップに君臨し続けているバート・バカラックは、1928年5月12日ミズーリ州カンザスシテイーに生まれました。歌手を目指していた母親の影響で、バカラックも幼少の頃からピアノやドラムなどを学んでいましたが、彼の目標はミュージシャンではなくプロ・スポーツ選手になる事でした。しかし、家族がニューヨークに引っ越した事で彼の人生が大きく変わります。きっかけは、ジャーナリストだった父に連れられて行ったジャズ・クラブで見たミュージシャンたちの素晴らしい演奏でした。ディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーなどのバップ全盛期の革新的なジャズは、彼を新しい音楽の世界へといざなったのです。ジャズに夢中になったバカラック少年は一方で、近代クラシック音楽の世界において、常に革新的なサウンドを追求し続けた作曲家:ラヴェルにも魅了されました。ジャズとクラシック、二つの異なったジャンルの新しい潮流に憧れた彼は、迷わず音楽の道へ飛び込んで行きました。
大学卒業後、ニューヨークのマンズ音学院、カリフォルニアのサンタ・バーバラ音楽アカデミーで学び、ピアニストとして数年間活動、その後ニューヨークに戻り作曲家としての活動をスタートさせました。しかし、なかなか芽が出ない下積み時代が続き、クラブでの伴奏でかろうじて日銭を稼ぐ毎日でした。この時期に最初の離婚を経験、精神的、金銭的にもどん底の状態にあった彼を救ったのは、ドイツの歌姫マレーネ・ディートリッヒでした。1956年から1961年まで、彼女のツアー・バンドのコンダクター兼アレンジャ-として活動した事で、バカラックには徐々に仕事のオファーが舞い込むようになりました。
(運命の出会い~そして超人気作家へ)
この頃バカラックは、後に彼の重要な音楽的パートナーとなる人物に出会います。1956年から1973年までコンビを組んだ作詞家、ハル・デヴィッドです。二人は1957年マーティー・ロビンスの「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」で、コンビとして初のヒットを飛ばし、その後黄金コンビとして数々のヒット曲をものにしました。
バンドの指揮者という定職により生活が安定しただけでなく、その知名度が広がったバカラックは、ハル・デヴィッドとのコンビで作曲家としての活動に本腰を入れ始めました。そうして生まれた彼の出世作が、以後バカラック作品とは切っても切れない関係になるディオンヌ・ワーウィックが歌う「ドント・メイク・ミー・オーヴァー」でした。この曲のデモを聴いた当時のレコード会社の社長は、その素晴らしさが理解できず、涙を流しながら酷評したという伝説が残っています。このエピソードは、もしかしたらバカラック・サウンドの本質を最も良く表しているかもしれません。なぜなら、音楽をビジネスとしているプロにとってすら不協和音に聞こえるほど、当時において彼の音楽は斬新だったという事なのです。数々の名曲を生んだ偉大なる作曲家ホーギー・カーマイケルをして「バート・バカラックは音楽業界の常識というものに全く関心がない、全てのルールを破って成功した人物だ」と言わしめた彼の曲作りのスタイルはこの時点で既に完成していて、その証拠にこの曲は1962年全米チャート21位まで上がり、バカラックを一躍人気作曲家に押し上げました。それ以後、同じくディオンヌ・ワーウィックが歌った「ウォーク・オン・バイ」、カーペンターズでお馴染みの「クロース・トゥ・ユー(遙かなる影)」、アレサ・フランクリン・ヴァージョンが有名な「小さな願い」(1967年)など、数え切れないくらいのヒット曲を生み出してきました。(バカラックの代表曲については、別項の”バカラック・ベスト40”をご覧下さい)。
革新的な彼の作品に対して、当時の旧態依然とした音楽業界での評価は今ひとつでした。そこで彼は作曲家として一人前の評価を得るため、ミュージカルの作曲に挑戦します。それが1968年に上演されたニール・サイモン脚本のブロードウェイ・ミュージカル「プロミセス・プロミセス」でした。彼はこの作品で1969年グラミー賞最優秀ミュージカル・ショー・アルバムを受賞、さらに劇中歌「恋よ、さようなら」はディオンヌ・ワーウィックの歌により全米6位まで上昇、1970年グラミー賞最優秀ポップ女性ヴォーカルを受賞しました。名実共に彼は、一流作曲家の仲間入りを果たしたのです。
バカラックの名前は、同時期に映画音楽の世界でも広まっていきました。『何かいいことないか子猫チャン?』(1965年)、『007/カジノ・ロワイヤル』(1967年)、『失われた地平線』(1973年)、そして『明日に向かって撃て』(1969年)ではアカデミー作曲賞を受賞、B.J.トーマスの歌った主題歌「雨にぬれても」は全米1位を記録、世界的大ヒットになり、アカデミー主題歌賞も受賞しました。彼は1981年にも『ミスター・アーサー』の主題歌「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」(歌はクリストファー・クロス)で再びアカデミー主題歌賞を受賞しています。
(再評価~現在まで)
その後もバカラックは数々の名曲・ヒット曲を生み出し続けています。ここ数年は新曲のリリースこそ減ってきたものの、新しいファン層による世界的なバカラック再評価のムーブメントが起こっており、様々なアーティストによるバカラック・ナンバーのカバーやトリビュート・アルバムのリリースが続いています。
1997年には久々の来日公演が実現、元気な姿と歌声を日本のファンの前で披露しました。最近のバカラックの活動で最も注目されたのが、1998年リリースのエルヴィス・コステロとのアルバム『ペインテッド・フロム・メモリー』でしょう。これはブリル・ビルディングを舞台にした映画『グレイス・オブ・マイ・ハート』の主題歌「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」での共作をきっかけに制作されたコラボレ-ション・アルバムで、以前からバカラックからの影響を公言していたコステロにとっては夢の実現とも言うべきプロジェクトでした。その上、それまでアメリカでのヒットに恵まれなかった彼にとって、初めてのアメリカでのヒット作にもなりました。収録曲の「アイ・スティル・ハヴ・ザット・アザ-・ガール」は1988年グラミー賞ベスト・ポップ・コラボレーション・ウィズ・ヴォーカル賞を受賞、その後コステロとは数回のコンサートを行い、映画『オースティン・パワーズ・デラックス』では本人役で出演、演奏シーンで共演を果たしています。
2000年には、『ミスター・アーサー2』以来14年ぶりに映画音楽を手掛けた『イズント・シー・グレイト』のオリジナル・サウンドトラックをリリース、久々にハル・デイヴィッドとの共作が実現し、ディオンヌ・ワーウィックとヴァネッサ・ウィリアムスが歌う新曲も収録されました。昨年2004年には、アイズレー・ブラザーズのロナルド・アイズレーとのコラボレーション・アルバム『アイズレー・ミーツ・バカラック:ヒア・アイ・アム』をリリース、バカラック・ナンバーのカバーに加えて2曲の新曲を披露し、ファンを喜ばせました。最も新しいリリースでは、先日リリースされたばかりのケニ-・Gの最新アルバム『デュエット』において、往年の名曲「アルフィー」を共演しています。今年77歳になるバカラックですが、これからも素晴らしい名曲を私達に届けてくれる事でしょう。本人名義のニュー・アルバムにも期待したいところです。
【BACHARACH TOP 40 SONGS】
数々のヒット曲を生み出したバカラックの代表曲を、全米チャート・アクションと共にご紹介する、アメリカン・トップ40ならぬ、“バカラック・トップ・40”! ほぼ全ての曲がTOP40ヒット!
*チャートアクションは全てビルボードより
*曲名が斜め書体のものは弊社非管理楽曲
- (They Long To Be) Close To You / CARPENTERS :1970年ポップ1位
遥かなる影/カーペンターズ - Do You Know The Way To San Jose ? / DIONNE WARWICK:1968年ポップ1位 R&B23位
サン・ホセへの道 /ディオンヌ・ワーウィック - The Strory Of My Life / MARTY ROBBINS:1957年ポップ15位 カントリー1位
ストーリー・オブ・マイ・ライフ/マーティ・ロビンス - Raindrops Keep Fallin’ On My Head / B.J. THOMAS:1970年ポップ1位
雨にぬれても/B.J.トーマス 1970年アカデミー主題歌賞受賞 - I Say A Little Prayer / ARETHA FRANKLIN:1968年ポップ10位 R&B3位
小さな願い/アレサ・フランクリン - Baby It’s You / THE SHIRELLES:1962年ポップ8位
ベイビー・イッツ・ユー/シレルズ - What’s New Pussycat ? / TOM JONES:1965年ポップ3位
何かいいことないか仔猫ちゃん?/トム・ジョーンズ - Tower Of Strength / GENE McDANIELS:1961年ポップ5位 R&B5位
タワー・オブ・ストレングス/ジーン・マクダニエルズ - I Just Don’t Know What To Do With Myself / DIONNE WARWICK:1966年ポップ26位
恋のとまどい/ディオンヌ・ワーウィック - I’ll Never Fall In Love Again / DIONNE WARWICK:1969年ポップ6位 R&B17位
恋よ、さようなら/ディオンヌ・ワーウィック - Blue On Blue / BOBBY VINTON:1963年ポップ3位
ブルー・オン・ブルー/ボビー・ビントン - Anyone Who Had A Heart / DIONNE WARWICK:1964年ポップ8位
恋するハート/ディオンヌ・ワーウィック - You’ll Never Get To Heaven(If You Break My Heart) / THE STYLISTICS:1973年ポップ23位 R&B8位
ユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・へヴン/スタイリスティックス - Only Love Can Break A Heart / GENE PITNEY:1962年ポップ2位
愛の痛手/ジーン・ピットニ- - Any Day Now / CHUCK JACKSON:1962年ポップ23位 R&B2位
エニイ・デイ・ナウ/チャック・ジャクソン - Casino Royale / HERB ALPERT & THE TIJUANA BRASS:1967年ポップ27位
カジノ・ロワイヤル/ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス - The Look Of Love / DUSTY SPRINGFIELD:1967年ポップ22位
恋の面影/ダスティ・スプリングフィールド - Walk On By / DIONNE WARWICK:1964年ポップ6位 R&B6位
ウォーク・オン・バイ/ディオンヌ・ワーウィック - (There’s ) Always Something There To Remind Me / NAKED EYES:1983年ポップ8位
恋のウェイト・リフティング/ネイキッド・アイズ - What The World Needs Now Is Love / JACKIE DeSHANNON:1965年ポップ7位
世界は愛を求めている/ジャッキー・デシャノン - Reach Out For Me / DIONNE WARWICK:1964ポップ20位
リーチ・アウト/ディオンヌ・ワーウィック - Wives And Lovers / JACK JONES:1964年ポップ14位
素晴らしき恋人たち/ジャック・ジョーンズ - Twenty Four Hours From Tulsa / GENE PITNEY:1963年ポップ17位
タルサから24時間/ジーン・ピットニ- - Make It Easy On Yourself / WALKER BROTHERS:1965年ポップ16位
涙でさようなら/ウォーカー・ブラザーズ - Don’t Make Me Over / DIONNE WARWICK:1963年ポップ21位 R&B5位
ドント・メイク・ミー・オーヴァー/ディオンヌ・ワーウィック - Alfie / DIONNE WARWICK:1967年ポップ15位
アルフィー/ディオンヌ・ワーウィック - Wishin’ And Hopin’ / DUSTY SPRINGFIELD:1964年ポップ6位
ウィッシン・アンド・ホーピン/ダスティ・スプリングフィールド - This Guy’s In Love With You / HERB ALPERT&THE TIJUANA BRASS:1968年ポップ1位
ディス・ガイ/ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス - Living Together, Growing Together / THE 5TH DIMENSION:1973年ポップ32位
リヴィング・トゥゲザ-、グロウイング・トゥゲザ-/フィフス・ディメンション - Arthur’s Theme (The Best That You Can Do) / CHRISTOPHER CROSS:1981年ポップ1位
ニューヨーク・シティ・セレナーデ/クリストファー・クロス 1981年アカデミー主題歌賞受賞 - The Windows Of The World / DIONNE WARWICK:1967年ポップ32位
世界の窓と窓/ディオンヌ・ワーウィック - That’s What Friends Are For / DIONNE & FRIENDS:1986年ポップ1位 R&B1位
愛のハーモニー/ディオンヌ&フレンズ 1986年グラミー賞ソング・オブ・ザ・イヤー受賞 - God Give Me Strength / Burt Bacharach & Elvis Costello
ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス/バート・バカラック&エルヴィス・コステロ - Love Power / DIONNE WARWICK & JEFFREY OSBORNE:1987年R&B5位
ラブ・パワー/ディオンヌ・ワーウィック&ジェフリー・オズボーン - On My Own / PATTI LaBELLE & MICHAEL McDONALD:1986年ポップ1位 R&B1位
オン・マイ・オウン/パティ・ラベル&マイケル・マクドナルド - A Message To Michael / DIONNE WARWICK:1966年ポップ8位 R&B5位
マイケルへのメッセージ/ディオンヌ・ワーウィック - Promises, Promises / DIONNE WARWICK:1968年ポップ19位
プロミセス、プロミセス/ディオンヌ・ワーウィック - One Less To Bell To Answer / THE 5TH DIMENSION:1970年ポップ2位 R&B13位
- Making Love / ROBERTA FLACK:1982年ポップ13位 R&B29位
メイキング・ラヴ/ロバータ・フラック - Heartlight / NEIL DIAMOND:1982年ポップ5位
ハートライト/二―ル・ダイアモンド
【BACHARACH BEST ALBUM 5選】
プロとして既に50年以上のキャリアを誇るバカラック。コンポーザー/アレンジャ-/プロデューサーとしてのヒット曲だけでなく、ソロ・アーティストとしての代表作も含めた5枚のアルバムをご紹介!
1、『バート・バカラック・プレゼンツ・スウィート・メロディーズ』
BURT BACHARACH presents SWEET MELODIES
2001.8.22発売/ワーナーミュージック/WPCR-10978
数あるバカラック・コンピの中でもベスト選曲と言える、まさに“ベスト・オブ・ベスト”な2枚組コンピレーション。カーペンターズ、ディオンヌ・ワーウィック、B.J.トーマスをはじめ、アレサ・フランクリン、ダスティ・スプリングフィールド、クリストファー・クロスからエルヴィス・コステロまで、エバーグリーンなヒット曲を50曲も収録した大推薦盤。バカラック初心者にも入門篇として最適なアルバムです。
2、『バート・バカラック・プレゼンツ・ワン・アメイジング・ナイト』
ONE AMAZING NIGHT / BURT BACHARACH
1998.11.21発売/ビクターエンタテインメント/VICP-60537
1998年4月にTV放送されたスペシャル・コンサートの模様を収めたライブ・アルバム。ニューヨークのハマースタイン・ボールルームで行われた夢のステージを収録しています。シェリル・クロウ、クリッシ-・ハインドをはじめ、エルヴィス・コステロ、ルーサー・ヴァンドロス、そしてバカラックの音楽を語る上で忘れる事の出来ないディオンヌ・ワーウィックまで、世界のトップ・アーティスト達がバカラックの元に一堂に会した、まさに“驚くべき一夜”の記録です。
3、『ペインテッド・フロム・メモリー/エルビス・コステロ&バート・バカラック』
PAINTED FROM MEMORY / ELVIS COSTELLO with BURT BACHARACH
1998.10.7発売/ユニバーサルミュージック/PHCR-1655
ブリル・ビルディングを舞台にした映画『グレイス・オブ・マイ・ハート』の主題歌「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」(本作にも収録)での共作をきっかけに制作されたコラボレイション・アルバム。
デビュー直後からバカラック・ナンバーをカバーするなど、その影響を公言していたコステロにとっては夢の実現となったプロジェクトで、リリースと前後して数回のみではあるがライブも行われました(ビデオ・リリース有り)。1988年グラミー賞ベスト・ポップ・コラボレーション・ウィズ・ヴォーカル賞受賞曲「アイ・スティル・ハヴ・ザット・アザ-・ガール」収録。
4、『メイク・イット・イージー・ン・ユアセルフ/バート・バカラック』
MAKE IT EASY ON YOURSELF / BURT BACHARACH
現在輸入盤のみ
1969年、A&Mからリリースされたバカラックのソロ・アルバム第二弾。「ディス・ガイ」、「恋よさようなら」、「サン・ホセへの道」等、自身のそれまでのヒット曲をセルフ・カバー、渋いヴォーカルも披露しています。全米アルバム・チャートでは最高位51位とあまり奮いませんでしたが、ロング・セラーとなりゴールド・アルバムを獲得しました。
5、『アイズレー・ミーツ・バカラック:ヒア・アイ・アム/ロン・アイズレー&バート・バカラック』
ISLEY MEETS BACHARACH : HERE I AM / RON ISLEY & BURT BACHARACH
2004.1.21発売/ユニバーサルミュージック/UICW-1046
昨年もアルバム・リリース/ツアーを行うなど、今も現役として大活躍中のアイズレー・ブラザーズのロナルド・アイズレーが長年温めてきた企画を実現させたバカラックとのコラボレーション・アルバム。「アルフィー」、「雨にぬれても」「遥かなる影」他バカラック・スタンダード11曲に新曲2曲を加えた計13曲をバカラック自身がアレンジ/プロデュースしています。オーケストラの指揮も担当。現時点(2005年4月)での、バカラック名義での最新アルバムです。