Vol.32 仕掛人、クライヴ・デイヴィス
昨今、内外の音楽シーンで注目されているカヴァー・アルバム。
“エスタブリッシュド・アーティストに良い楽曲をカヴァーさせ、大ヒットを生み出す”…このスキームを発案したのは名プロデューサーにしてレーベル・ヘッドのクライヴ・デイヴィス。
今回のThe Seasoning of Songsは、仕掛人、クライヴ・デイヴィスをご紹介いたします。
アメリカでのカヴァー・ブームの始まりはロッド・スチュワートのカムバック・プロジェクトにあったと云えましょう。 ‘70年代、ロック界の天才ヴォーカリストといわれたロッドですが、’90年代になるとヒットに恵まれず、もはや”過去”のアーティストとして古巣のワーナーでも手を焼いていました。
当時ロッドが訴えていた“スタンダードを歌いたい”という思いに応えたのがクライヴ・デイヴィスその人。
かねてからロッドのヴォーカリストとしての才能を高く評価していたクライヴは、自ら主宰するレーベル:J-Recordsにロッドを移籍させ、フィル・ラモーン、リチャード・ペリーらをプロデューサーに起用してリチャード・ロジャースやジョージ・ガーシュインらのスタンダード曲をレコーディング、’02年「ザ・グレイト・アメリカン・ソング・ブック」をリリースしたところ。大好評を得た為シリーズ化、特に’04年11月にリリースしたVol.3で、ロッドは実に25年ぶりに全米チャートNo.1をスコア、さらにグラミー賞をも獲得したのです。
この成功に続いてクライヴはバリー・マニロウの復活を手がけます。
そもそも1973年、CBSレコードを解任されたクライヴ・デイヴィスが自身のレーベル:アリスタで契約した最初のアーティストがバリー・マニロウでした。’70年代「哀しみのマンデイ」「コパカバーナ」などの大ヒットを出したのですが’80年代後半からジャズに傾倒し、2001年コンコードに移籍します。しかしヒットに恵まれず2005年に再びクライヴの指揮するアリスタと契約します。そこでクライヴが提案した企画がカヴァー・アルバムだったのです。クライヴがバリーにカヴァーさせた曲は’50年代以降の”戦後のヒット曲”、ロッドのそれより1世代後のマーケットを狙ったのです。
‘06年にリリースした「グレテスト・ソングス・オブ・フィフティーズ」は29年ぶりに全米No.1に耀きその後ロッドのケース同様シリーズ化、最新アルバム「ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・セヴンティーズ」は10月9日付全米チャートで4位に初チャート・イン、3作連続初登場5位内という快挙を成し遂げたのです。
もともとは弁護士であったクライヴ・デイヴィスは1960年コロンビア・レコードの顧問弁護士として入社、’65年経営の取締役本部長に抜擢され国内レコード部門のすべてを委されました。
制作及びマーケティングにおける彼のクリエイティヴな才能が発揮されたのはこの頃からでした。
‘66年にはコロムビア・レコードの社長に就任、時代の流れはロックであるといち早く察知、それまでのコロンビアのメインストリームであったMOR路線(ローズマリー・クルーニー、トニー・ベネット、ミッチ・ミラー、レイ・コニフ、パーシー・フェイス、アンディ・ウィリアムス、バーバラ・ストライザンド・・・)をロック路線に変えるという大改革を敢行、同レーベルを大きく成長させました。
彼の手腕については自叙伝「アメリカ、レコード界の内幕」(’74年発刊。’83年スイング・ジャーナル社より和訳本発刊、絶版)に詳しく書かれているので、ご興味をお持ちの方々はそちらを参照いただきたいのですが、ここでは一連のカヴァー・アルバムのアイデアの元になったとも云えるクライヴの編み出した “公式”について触れておきましょう。
アルバムのマーケティングの手段として当然考えられることは、収録曲にオリジナルのヒット・シングル曲を入れることです。では、名前は知られているがオリジナル・ヒットに恵まれないアーティスト場合はどうしたのでしょう?
クライヴはそうしたアーティストに"新たな息吹を吹き込む"公式を作りました。
それは誰もが知っている他人のヒット曲をカヴァーするという方法でした。
アンディ・ウィリアムスの場合、例えば当時ヒット中の映画音楽のテーマを誰よりも早くカヴァーしたり、いち早くビートルズ・ナンバーをカヴァーしたりすることによって、オリジナルにひけを取らないアンディー版のヒット曲を作ってしまったのです。
クライヴがその"公式"を使ったのが'60年代の終わりとすれば、'40年前の公式が形を変えて現代にも通用しているといえるでしょう。
クライヴは言います「人はレコード(CD)の裏をみて、1曲でも自分が知っている曲が多いものを買うと・・・・」。
ロッドとバリーのカヴァー・アルバムに収録された100曲以上に及ぶ楽曲は全てクライヴを中心に選択されました。
選ばれた100曲超の楽曲は、アーティストと企画に合わせ、スタンダード、ロック、POP、オールディズの各ジャンルから、なんと1曲もダブらせることなくチョイスされており、それらの傑出した楽曲の魅力がアメリカの団塊世代といわれる"ベビー・ブーマーズ"マーケットに支えられて、一連の大ヒットアルバムを生み出してきたのです。
ロッドやバリーのカヴァー・アルバムの成功は当然アメリカでカヴァー・ブームを呼び、アート・ガーファンクル、ポール・アンカ、カーリー・サイモン、リタ・クーリッジらもカヴァー・アルバムをリリースしています。
また、この流れはアメリカから日本にも飛び火、ご存知の方も多いと存じますが、徳永英明さんの「VOCALIST 3」が’07年9月3日付のオリコンで初登場1位を獲得。同シリーズの2枚もベスト10にランクされる大ヒットとなっております。
さらに、中森明菜さん、杏里さん達のカヴァー・アルバムも注目されています。
もちろん、クライヴが徳永さんのアルバムをプロデュースした訳ではないのですが、クライヴのアイデアが世界的なムーブメントの誘い水になったと言えるでしょう
ロッド・スチュワートの「ザ・グレイト・アメリカン・ソング・ブック」シリーズには
- ”ブルー・ムーン”
- ”この素晴らしい世界”
- ”スターダスト”
- ”夢を描くキッス”
- ”外は寒いよ”
- ”バークリー・スクエアのナイチン・ゲール”
- ”ムーングロウ”
- ”ザット・オールド・フィーリング”
- ”アイル・ビー・シーイング・ユー”
- ”フォー・オール・ウィー・ノウ”
- ”タイム・アフター・タイム”
- ”恋の気分で”
- ”クレイジー・シー・コールズ・ミー”
- ”私のお気に入り”
- ”ユー・センド・ミー”
- ”マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ”
- ”恋のチャンス”
等の名曲がフューチャーされています。
Vol.1(BVCP-21282)/Vol.2(BVCM-31122)/Vol.3(BVCM-31140)/Vol.4(BVCM-31177)
また、ロック・スタンダードをカヴァーした「グレート・ロック・クラッシックス」(BVCM-31201)もリリースされています。
バリー・マニロウの「ザ・グレイテスト・ソングス」シリーズには
- “アンチェインド・メロディー”
- ”慕情”
- ”君の瞳に恋してる”
- ”チェリッシュ”
- ”見つめあう恋”
- ”雨にぬれても”
- ”追憶”
- ”瞳の面影”
- ”君の友達”
- ”遥かなる影”
などのポップスが収録されています。
バリー・マニロウ「ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・フィフティーズ」(BVCM-31189)
「ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・シックスティーズ」(BVCP-21520:10/24リリース)
「ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・セヴンティーズ」(BVCP-21556:10/24リリース)