Vol.38 "音楽は不況に強い!"

世の中どこを向いても不景気・不景気…あまり良いニュースは聞きませんね…。
どっこい、音楽は不況のような逆境に強い一面を持っています。
音楽には、難局に陥った人々を応援し、奮い立たせるような効果があるからでしょう。
ということで、今回のSeasoning of Songsは、”音楽は不況に強い!”と題しまして、今世間を取り巻いている世界的な不況の前例ともいえる'30年代に起こった世界大恐慌の最中に流行し、人々を励まし、不況を乗り切るエネルギーとなったヒット・ソングを数曲ご紹介しましょう。 

第二次大戦後、疲弊した日本で最初にヒットしたのは、並木路子さんが唄った「リンゴの唄」、ご本人が主演した映画『そよ風』の挿入歌として作られました。
赤いリンゴに夢をたくして歌う彼女の可憐な声が、なにもかも失ってしまった人々を励まし、戦後の復旧の糧となったとも言われています。
歌が人々を勇気付けた好例と言えるでしょう。
世が変わり、現在、戦争に変わって世界にとっての脅威の最たるものとなったのが、経済的な不況…世界が経験した最大の不況といえば、何といっても1929年10月24日ウォール街の株の暴落に端を発した大恐慌でしょう。
'29年から'32年にかけてアメリカ、そして世界の経済界を暗黒の闇に引きずり込みました。
しかしながら、不況の闇が全世界を覆うその時代、こと、アメリカ大衆音楽の世界に限って言うならば、以下のような多くの魅力的なヒット曲が生まれ、非常に豊かな時期を謳歌していたのです!


 

-1929年- ナット・キング・コール「恋こそはすべて」
「スターダスト」(Stardust)

ホーギー・カーマイケル(曲)とミッチェル・パリッシュ(詞)による名曲中の名曲、「虹の彼方に」とならんで世界で最も人気の高いスタンダード曲のひとつ。
元はアップテンポのダンス曲で病人も踊りだすほど楽しい曲と言われていました。

「スターダスト」は、ナット・キング・コール「恋こそはすべて」(TOCJ-90053)に収録されています 。  


 

「浮気はやめた」(Ain't Misbehavin')

ピアノを弾き語る太っちょのシンガー&作曲家ファッツ・ウォーラーの作品(詞はアンディー・ラザフ)彼の曲には”失敗しても辛くても明るく楽しくいこう”と言った楽観的な内容が多く、不況時にはピッタリだったと言えます。

「浮気はやめた」は、ナット・キング・コール「恋こそはすべて」(TOCJ-90053)に収録されています 。  

 

「雨に唄えば」(Singing In The Rain)

MGM映画「ハリウッド・レビュー」の為にアーサー・フリード(詞)ナシオ・ハーブ・ブラウン(曲)によって書かれました。
”雨の中で歌っている、空は暗く曇っているけれど心には太陽が照っている・・”という歌詞で、これも当時の世相を反映しています。

「雨に唄えば」は、V.A.「大人の映画音楽100」(UICY-4464)に収録されています。   

 

-1930年- ビリー・ホリデイ「奇妙な果実」
「明るい表通りで」(On The Sunny Side Of The Street)

「捧ぐるは愛のみ」と同じ、ドロシー・フィールズ(詞)とジミー・マクヒュー(曲)のコンビによって書かれた曲。
”コートをつかみ、帽子を被り、心配事はドアにおいて陽が当たる通りを歩いていけば~ロックフェラーみないな気持ちに…”という歌詞の、まさに不況の真っ只中の暗い気分を吹き飛ばす曲でした

「明るい表通りで」は、ビリー・ホリデイ「奇妙な果実」(UCCU-9641)に収録されています 。 

   

 

-1931年- ビング・クロスビー「The Centennial Anthology」
「アイ・サレンダー,ディア」(I Surrender, Dear)

大恐慌時代に音楽とともに娯楽で人気が高かかったのがトーキーの映画。
新聞、ラジオに続いて娯楽人気の第3位でした。
これはトーキーと共に育ったスター、ビング・クロスビーの出世作。
ゴードン・クリフォード(詞)ハリー・バリス(曲)の作品です

「アイ・サレンダー,ディア」は、ビング・クロスビー「The Centennial Anthology」(輸入盤)に収録されています。 


 

-1932年- デューク・エリントン「デューク・エリントン・ベスト」
「スイングしなけりゃ意味ないね」
(It Don't Mean A Thing If It Ain't Got That Swing)

この頃からスイング音楽が流行りだし、人々の心を明るくしました。
”スイングの先駆者はデューク・エリントンだ!”と、マネージャーがこの曲を使って宣伝したといわれています。
そのマネージャーでもあるアービング・ミルズが詞を書き、エリントンが曲を手掛けた作品
村上春樹さんがこの曲の邦題をもじってタイトルにした音楽エッセイ(意味がなければスイングはない)を出されましたね。

「スイングしなけりゃ意味ないね」は、デューク・エリントン「デューク・エリントン・ベスト」(BVCJ-38139)に収録されています 。 


…以上のように、現在我々が体験している不況から遡ること約80年前には数多くのヒット・ソングが生まれ、落ち込んだ人々の心を勇気付け、かの大恐慌を終らせその後の世界的な経済成長の一助となりました。現代にもこんなヒット・ソングが数多く生まれ、一刻でも早くこの不況からの脱却を実現してもらいたいものです!