Vol.52 "アイヴォリー・クイーン・オブ・ソウル"ティーナ・マリー逝去!

モータウンといえば、マーヴィン・ゲイ、スモーキー・ロビンソン、スティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロス、ライオネル・リッチー、そしてマイケル・ジャクソン、と、錚々たるブラック=アフロ・アメリカン=黒人アーティストを生んだ、音楽に限らず’80年代後半までは黒人企業の成功例として挙げられ“アフロ・アメリカンによるアフロ・アメリカンのための…”というキャッチ・フレーズが相応しいシンボリックなレーヴェル。
そんなモータウンにも白人アーティストが所属していました。
それが、ティーナ・マリー

今回のThe Seasoning of Songsでは、ティーナ・マリーを特集いたします。

ティーナ・マリーは、ポルトガル/アイルランド/イタリア/ネイティヴ・アメリカン(インディアン)系混血というバックグラウンドを持つ白人ですが、サンタモニカの黒人居住地域:オークウッドに生まれ、ごく当たり前にモータウン/アトランティック/スタックス・チューンをはじめとするソウル/R&Bミュージックを聴いて育った彼女は、自身を「白い肌を持つブラック・アーティスト」と呼び、’76年にティーナを見出し契約したモータウン創始者:ベリー・ゴーディをして「ティーナ・マリーの中で白いのは肌だけだ」と云わしめたほどのブラックネスを湛えた楽曲や唱法で、ブラック・アーティスト以外受け入れない排他的傾向が強かった当時のブラック・コミュニティー/ブラック・マーケットから熱烈に支持された、まさに”Ivory Queen of Soul”(アイヴォリー・クイーン・オブ・ソウル=アイヴォリー色のソウルの女王)のニックネームそのまま、特異なR&Bアーティストでした。

ビートルズやストーンズ、ジャニス・ジョプリンにしても、はたまたホール&オーツやワム!、ジャスティン・ティンバーレイク(インシンク)にしても、ブラック・ミュージックをそのベース/ルーツに色濃く持ちながら活躍したアーティストは数あれど、デビュー来その楽曲/アルバムがポップ・チャートよりもR&Bチャートで圧倒的に強いという白人アーティストは時代を遡ってみてもティーナ・マリーの他にはいないといえましょう。

その、ティーナ・マリー、アーティスト活動における全盛期は’80年代で、なんといっても一時期恋仲にあったリック・ジェイムスとのコラボレーションがそのハイライト、壮大なデュエット・バラッド:「Fire And Desire」や、二人の息の合った絶妙の寸劇そしてティーナのラップが聴ける「Square Biz」(ともに‘81年リリース)などのヒット曲を生んでいます。

また、リック・ジェイムスとの恋人関係が終わるのとほぼ同時にレーヴェルをモータウンからエピックに移籍、当時リック・ジェイムスとはライバル関係にあったプリンス風のエレクトロ・ファンク・ナンバー:「Lovergirl」(‘85年)を発表、全米4位の大ヒットをマークしています。

尚、この移籍に際して、新作のリリースを躊躇う当時の所属レーヴェル:モータウンを訴えたティーナ、見事勝訴したその判例は、ティーナの本名(マリー・クリスティーヌ・ブロッカート)から“ブロッカート・イニシアティヴ”または“ティーナ・マリー法”とも呼ばれ、それまで慣習的に続いてきたレーヴェル/レコード会社側とアーティストとのパワー・バランスを変え、レコード会社の言いなりとも云えたアーティスト側の権利を向上させるのに大きな影響を与えるとともに、音楽業界の仕組みを根底から変化させた判例となりました。
こんにちのレコード契約の礎に、ティーナ・マリーが大きく寄与しているといっても過言ではないでしょう。

‘90年代に入るとアーティスト活動を中断し、娘:アリ・ローズの育児に専念しつつも、ストリート・ミュージシャンだったレニー・クラビッツ(当時16歳)を見出し、住まいや楽器を与えアーティスト活動をサポート(今回のティーナの死にあたり、レニーは初めてその件りを吐露しました。ちなみにティーナ、リック・ジェイムスやミニー・リパートンといった、かかわりの深い人物…ミニー・リパートンの場合は旦那さん=かつてティーナをプロデュースした実績あり…の遺児の名親になったり、と、面倒見が良いというか、情けが深いというか、そんな姉御肌素晴らしい人間性も持ち合わせていました)、そして、ティーナが’80年代に発表した楽曲がフージーズをはじめ数多くのヒップホップ・アーティストによってサンプリングされるなど、後進に道を造り、大きな影響を与えます。

‘00年代に入ると、アーティスト活動を再開、「La Dona」(‘04年リリース、1stシングル「I'm Still In Love」がグラミー賞最優秀女性R&Bヴォーカル・パフォーマンスにノミネート、レーヴェルはリル・ウエインらが所属するニュー・オリンズのキャッシュ・マネー!)や「Congo Square」(‘09年)など佳作を次々と発表し、再びスポット・ライトを浴び第二の全盛期が…といった矢先、娘アリ(Rose LeBeau名義でアーティスト活動も)の19歳のバースデー翌日:12月26日に54年の生涯を閉じました。

この訃報を知り、レニー・クラビッツが既出の件りを含めたコメントを発表したのを始め、アリシア・キーズ、メアリー・J.ブライジ、ミッシー・エリオット、スヌープ・ドッグ、シーラ・E、アシャンティ、ブランディ、エイメリーら多くのアーティストが追悼の言葉を寄せています。

現在シーンで活躍しているアーティスト、特にブラック・アーティストがこれほどまでにティーナをリスペクトする事実を知るにつけ、白人でありながら、ティーナが、ティーナの作品が、ブラック・コミュニティーにすんありと受け入れられ、ごく自然にそこに根付いていたかが覗えます。黒人居住地域でティーナの楽曲がごくごく普通にR&B専門ラジオから流れ、それに合わせて子供たちが歌っていたんでしょうね…そんな光景が浮かびます。

かつての恋人にしてアーティスト/クリエイティブ活動におけるこれ以上なき盟友:リック・ジェイムスも、’04年に56歳の若さで死去していますが、天国でふたたび共演/共作できるといいですね!

ティーナ・マリーの遺した名曲をこの機会に、お聴きになってみてはいかがでしょう?

【ティーナ・マリー】

「The Best Of TEENA MARIE, 20th Century Masters The Millenium Collection」(輸入盤)では、「I’m A Sucker For Your Love」「Behind The Groove」「I Need Your Lovin’」そして「Square Biz」など、モータウン時代のヒット曲が。。。



「Greatest Hits」(輸入盤)では、キャリア最大のヒット「Lovergirl」やフージーズがフックをサンプリングした「Ooh La La」など、エピック時代のヒット曲が楽しめます。




また、ティーナを語る・聴く上で欠かせないパートナー:リック・ジェイムスの作品も併せてご紹介


「ベスト・オブ・リック・ジェームス」(UICY-91315)では、代表曲「Give It To Me Baby」やMCハマーが「Uキャント・タッチ・ディス」でサンプリングした「Super Freak」、意味深いファンク・チューン「Mary Jane」、そしてティーナ・マリーとのデュエット「Fire and Desire」などを収録したベスト盤。